ファンを起点に短期でキャズムを超えた事例を並べたら共通の4要素が見えてきた話

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普段はアライドアーキテクツという会社で、ブランドのファンと売上づくりのお手伝いをさせていただいています。
そんなファンを重視するお仕事をしていて感じるのは、やはり中長期の取り組みが多いなあということ。

「ファンづくりには時間がかかる。いや、むしろ時間をかけたいんだ!」のような話はよく聞くし、そうお伝えすることもあるんですが、事業主としては短期の結果も欲しいもの
僕も実績があるのは

  • ファンミーティングでファン化のツボやファンのツボを把握して事業に活かす
  • SNSでハッシュタグコミュニティを作ってファンの量と気持ちを高める
  • 定期的にファンイベントを実施してファンの気持を高める

などの中長期の取り組みが多いです。
中長期の取り組みがベースとして重要なのはもちろん分かっているのですが、この世界に飛び込んでから、ファンを起点に短期で一気に認知や売上を拡げる(キャズムを超える)にはどうしたらいいのか再現性はないのか、ということをずっと考えています。

今回、まずは自分のイメージする「ファンを起点に短期でキャズムを超えた事例」を並べて共通項を探るのがいいのではと思い、3つほど並べてみました。
すると、再現性に近づく共通の4要素が見えてきたので、そちらをご紹介できればと思います。

結果的には「ファンの存在があるからこそ短期でキャズム超えがしやすい」という見解なので、ブランドのファンづくりに関わっている方は引き続きファンと中長期的に良い関係を作っていただきながら、短期でもファンと共にキャズム超えを狙う参考にしていただければ幸いです。




目次

ファンを起点に短期でキャズムを超えた3事例

ヤッホーブルーイング「僕ビール君ビール」

よなよなエールでおなじみ、そして僕も大好きなクラフトビール会社のヤッホーブルーイングさんがローソンと共同開発したローソン限定のクラフトビール「僕ビール君ビール」を2014年にローンチした時の事例です。

「僕ビール君ビール」はかえるのキャラクターが描かれたパッケージということもあり、社内では「かえるビール」と呼ばれていたそう。
ローンチの際には、ちゃんと全国のローソンでかえるビールが置かれているか社員さんたちはいろいろな店舗に行って確認。
かえるビールを見つけたら購入して「ローソン●●店でかえる捕獲 #かえるビール」とヤッホーブルーイング公式Twitterで投稿していったところ、ファンも真似して全国でかえる捕獲情報を投稿してくれ、どんどん広まっていきました。

この事態はWEBニュースでも取り上げられ、結果的に3ヶ月で1万5,000ケースを売る予定が1ヶ月で完売したそうです。
その後、僕ビール君ビールはローソンとしても定番商品として売られることになり、今もなおローソン限定クラフトビールとして売られています。

 

映画「カメラを止めるな!」


パンフレットどこかにいっちゃったのでこれで…

2018年の映画シーンに旋風を巻き起こした作品といえば「カメラを止めるな!」だと思います。
僕もご多分にもれず噂を聞きつけ見に行って「これは最高エンタメだ…!」と興奮したのを覚えています。

カメラを止めるな!は無名の監督と俳優たちが予算300万円で創ったインディーズ映画で、ワンカットで撮られたゾンビ映画とその後に隠された仕掛けによって映画ファンで話題となりました。
最初は新宿と池袋の2館での上映でしたが、映画ファンの口コミや、指原莉乃さん、斎藤工さん等の有名人の口コミがSNS上で広がり、テレビやラジオなどでも紹介され、最終的にはTOHOなど全国353館で上映されました。

結果、222万人動員、興行収入31.2億円(2018年邦画ランキング7位)、国内外数々の賞を受賞しました。

 

音声SNSアプリ「Clubhouse(クラブハウス)」

2021年、世界がコロナウイルスに見舞われている中、SNS上に突如現れ瞬く間に広まっていったのが音声SNSアプリ「Clubhouse」。
ルームと呼ばれる部屋を作り、リアルタイムでのスピーカーの話をリスナーが聞くという、いわば公開電話のようなSNSです。

このアプリは既存ユーザーから招待してもらわなければ入れず、当時は招待を望む人の投稿がTwitter上にあふれていました。
僕もTwitter上で「クラブハウス楽しい」などと友人が盛り上がっているのを見て、蚊帳の外感がすごく、招待してくれる人を探していたのを覚えています。

そんなClubhouseブームの始まりは「時価総額1000億円Clubhouse」というネット記事。
アプリ日本上陸のタイミングが重なったのと招待制の効果もあり、話題が拡散しました。
直後、芸能人の参入、テレビでの取り上げなどもあり一気に利用者が増えました。

アプリ上陸からわずか6日後にはApp Storeランキング1位。
LINEリサーチによると、日本全国15歳~59歳男女の認知率は1ヶ月で約70%まで高まったとのこと。

 

事例から垣間見える共通項

見ていただいた3事例はいずれもファンを起点に短期でキャズムを超えた事例です。
それらの経緯をたどると、共通した4つの要素が見えてきました。

 

①広まる本質

まずは大前提として、話題として広まる本質がどの事例も備わっている印象です。

「僕ビール君ビール」であれば、かえる捕獲という企画をフックに「ローソン限定の新ビール、うちの近くのローソンにもあるかな?飲んでみたいな」「大手ビール会社ではないヤッホーブルーイングがローソンと共同開発なんて応援したいな」というような広まる本質。

「カメラを止めるな!」であれば、「ネタバレになっちゃうから言えないけどとにかく面白いから見て欲しい!」「無名の監督・俳優たちが超低予算で作ったなんてすごい!応援したい」というような広まる本質。

「Clubhouse」であれば、「アメリカで流行った時価総額1000億円の新しい音声SNSアプリ、気になる…」「招待制!?え、やってる人楽しそう…誰か招待して!」というような広まる本質。

商品・サービス自体の魅力は開発前から設計しないといけないですが、僕ビール君ビールの「かえる捕獲」といった要素は後からの企画で仕掛けられています。
工夫をすれば「広まる本質」はプロモーションでも追加できるのではないでしょうか。

 

②ファン

その商品・サービスに触れ虜になった方、すなわちファンの存在が共通して見受けられます。
いずれの事例もファンの熱い口コミがSNSや口頭で存在したからこそ、後に紹介する③インフルエンサーや④マスにつながっています

カメラを止めるな、Clubhouseのように0からファンを作っていく場合もあれば、僕ビール君ビールのようにもともとヤッホーブルーイングのファンの方が起点になる場合もあります。
多くのブランドにとっては、ヤッホーブルーイングのように、常日頃からファンを大事にし、何かあった時は応援してくれるような関係づくりが重要と言えます。

 

③インフルエンサー

芸能人や著名人、自社のSNS公式アカウントなど、量的影響力を持つ方々の発信も、どの事例にも共通して見受けられます。

ファンの投稿は熱く、友人知人には特に高い影響力を持つのですが、なかなか量的には広がりづらい印象です。
(ただ、SNSで検索をした時に出てくるのはこういったファンの口コミ投稿なので、そういった点でも重要)

一方、インフルエンサーの投稿は質的にも量的にも影響力があり、お墨付きをもって話題を広げてくれます。
ファンの投稿だけでは届かなかった層にも届くようになります。
また、インフルエンサーの口コミが存在するからこそ、④マスにも取り上げられやすくなります。

カメラを止めるな、Clubhouseのように芸能人や著名人の発信を自然に得られるのがベストですが、実際はなかなか難しいのが正直なところ。
(例えば、TikTokのハッシュタグチャレンジでインフルエンサーも発信したくなるようなミームを作る、などやりようによっては作れるかもしれません)
であれば、弱くはなりますが、ヤッホーブルーイングのように自社のSNSアカウントを最大限に活用する、お金を払ってインフルエンサーの発信を得る、といったやり方が再現性の高いやり方ではないでしょうか。

 

④マス

マスの存在も共通して見受けられます。このマスを得ることこそ短期でのキャズム超えに一番必要な要素であると思われます。

この「マス」でのポイントは

  • 認知
  • 買い場

の2つの意味合いが存在することです。

カメラを止めるな、Clubhouseで見受けられる、テレビで取り上げられて知れ渡るといった「認知」のマス獲得。
僕ビール君ビールのローソンという全国の売り場での展開、カメラを止めるなの全国TOHOシネマズ進出といった「買い場」のマス獲得。

バイロンシャープの『ブランディングの科学』でいう、売上を上げるには「メンタルアベイラビリティ」「フィジカルアベイラビリティ」を広げるしかない、という考えと同じと思われ、キャズムを超えるには認知か買い場のマス獲得をするしかないように思えます。

ブランドは既存顧客維持を捨て、新規顧客獲得に注力すべきか?『ブランディングの科学2』の要約と見解

マスも③インフルエンサー同様、なかなか自然に得ることは難しいですが、①広まる本質、②ファン、③インフルエンサーを研ぎ澄ませることで得られやすくなるのではないでしょうか。
また、再現性という意味では、パブ獲得を目的としたPR施策、弱くはなりますが広告出稿といった手段も考えられます。




結局、『ティッピング・ポイント』の考えと同じになる

お気づきの方もいるかもしれませんが、「ファンを起点に短期でキャズムを超えるための4要素」は結局、マルコム・グラッドウェルが2000年(22年前!!)に書いた著書『ティッピング・ポイント』で主張している考えとほぼ同じになってしまいました。
『ティッピング・ポイント』で語られている「ある事象が一気に流行に傾く」ためのポイントは下記です。

①粘り
メッセージは誰かの行動を変えるくらい記憶に残ること。

②メイヴン(通人)
情報の専門家。他人に教えたがっている。社交的で利他。

③セールスマン(営業)
説得(表情や身振り手振りによる感情の伝染)がうまい。

④コネクター(媒介者)
知り合いが多い。好奇心や自信、社交性、エネルギーなどの複合的要素があり、多種多様な世界を融通無碍に行き来する。

それぞれ「ファンを起点に短期でキャズムを超えるための4要素」に当てはめると、

①粘り≒①広まる本質
②メイヴン≒②ファン
③セールスマン≒③インフルエンサー
④コネクター≒④マス

かなと。

ニューバランス鈴木さんが「カメラを止めるな!」のヒットの裏側を『ティッピング・ポイント』に当てはめて解説されていたのを思い出し、僕もカメ止めを事例の1つに組み込んで共通項を探って(『ティッピング・ポイント』に抗って)みましたが、結局言葉は違えどほぼ同じ内容になってしまいました。

考えとしては『ティッピング・ポイント』とほぼ同じということで、この4要素が揃えば短期でのキャズム超えの再現性は高いと言えるのかもしれません。

 

『ティッピング・ポイント』で書かれているもう1つの要素

実は、『ティッピング・ポイント』では「一気に流行に傾く」ためのポイントがもう1つ書かれています。
それが「背景」です。

●背景
流行はそれが起こる時、場所などの環境に敏感に反応する

今回の3事例のうち、1つだけこの背景を味方につけて短期でキャズムを超えた事例があります。
それがClubhouseです。

Clubhouseが世界で爆発的に流行した背景には、コロナ禍で外出ができず人と会えないという環境が重なっていました。
そんな環境では肉声でのつながりはTwitterの文字などよりもリッチに捉えられ、一気に広まったのです。

再現性から考えると、一般的な商品・サービスの開発と同じように、ローンチ時の世の中の状況やニーズを予想して商品・サービスを作るということがあるかと思います。
また、戦略PRのように、世の中にその商品が受け入れられる状況を空気感として作るというPR施策も考えられます。

 

まとめ:ファンを起点に短期でキャズムを超えるための4要素+α

ファンを起点に短期でキャズムを超えるための4要素は、

  1. 広まる本質
  2. ファン
  3. インフルエンサー
  4. マス (認知/買い場)

商品・サービスに「①広まる本質」を設計し、「②ファン」や「③インフルエンサー」に火をつけることで、「④マス」に広がれば、短期でキャズムを超える可能性が高くなるのではないか。
(そこに背景が味方すれば、短期でのキャズム超えがさらに容易になるのではないか。)




さいごに

一見、不確定要素が多く、再現性が低いように見えますが、「①広まる本質」と「②ファン」さえ強力であれば、「③インフルエンサー」と「④マス」はお金を上手に使う形で再現性はあるのではないかと考えています。

ブランドに「①広まる本質」と「②ファン」が備わっている場合は、4要素+αを参考に、短期でのキャズム超えを検討してみてはいかがでしょうか。

ブランドに「①広まる本質」と「②ファン」はまだまだいまひとつと感じる場合は、まずは「ファンと良好な関係を築くこと」がおすすめです。
ブランドがキャズムを超えたい時に一緒に立ち向かってもらえるようなファンがいる状態を目指してブランドを育てていくのです。

ファンと良好な関係を築くコミュニケーションの中で「①広まる本質」自体が見つかるかもしれないですし、キャズムを超えたい時は喜んで協力してくれ、「③インフルエンサー」や「④マス」を引き寄せる可能性も高まると思われます。

 

次の記事は、ファンと良好な関係を築くための『共感プログラム』

では、ファンと良好な関係を築くためにはどうしたらいいでしょうか。
そちらについては下記で考察しているので、よかったら参考にしてみてください。

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